苦くて甘い恋愛中毒


『突然のメール失礼致します。昨夜お世話になりました、金村菜穂と申します。お詫びをしたいのですが、お時間ございますでしょうか?』

電話をかけてはみたが、一向に繋がる気配もなく、メールを入れておくことにした。


愛想のかけらもなく、この上なく簡潔明瞭な文章である。
とはいえ、昨夜さんざん失態を曝しておいて、これ以上粗相をするわけにいかない。

まあ向こうにしてみたら、私の第一印象なんか最悪中の最悪なんだろうし、今更取り繕ったところでその意味なんてまったくないのだろう。

まだハタチそこそこの若い女が記憶を失うくらい酔い潰れ、揚げ句、スマホまでも使えないときた。
当の私ですら軽く引いてるのに、見ず知らずの人にとったら、どん引きの最上級以上だろう。


そうだ、バイト先にも連絡しなくては。
無断欠勤だなんてしたことがなかったから、逆に心配をかけているかもしれない。

「……金村です。連絡遅れてごめんなさい。ちょっと夏風邪っていうか、体調悪くて」

『そっか、あんまり無理しないようにね。こっちのことは心配いらないから、しっかり休んで』

私の嘘を疑うどころか本気で心配してくれている店長に、多少胸が痛む。
なけなしの良心が働いて、明日は出勤する旨を伝えた。

明日にはきっと、この頭痛と吐き気もおさまってるだろうから。


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