苦くて甘い恋愛中毒
部屋でのんびりしている癒しの時間を切り裂くように、けたたましい電子音が鳴り響く。
なんでバイブにしておかなかったんだろう。
せめて音量を下げておくべきだった。
心地いいうたた寝がこんな形で中断されるのは、とても気分のいいものじゃない。
眉間に皺をよせて、たいして長くもない手を必死に伸ばして携帯を取ろうとする。
ディスプレイを確認するのも面倒で、そのまま通話ボタンを押す。
『お世話になっております、仲山です。先程お電話をいただいたようなのですが、生憎手が離せませんで。申し訳ありませんでした』
「あ、金村です。……お仕事中にごめんなさい。昨日はお世話になりました」
仕事の相手だと思っていたのだろう、ビジネス調の電話に緊張が走る。
たかだか半年近く就活をしただけの学生の身では、社会人と話すことにまだ慣れていない。
思っていたよりも低い声と、想像通りの落ち着いた話し方。
電話越しなのに、妙に胸が高鳴る。
私の声は、震えてなかっただろうか。
『あぁ、昨日の。そういえばメールくれてたよね。鍵入れてくれた?』
メール見てるんじゃないか、というクレームは飲み込むことにする。
私に文句を言う資格はない。
「はい、ちゃんとポストに。本当にご迷惑をおかけしたみたいで……って言っても覚えてないんですけど……」
自分が情けない。
電話越しだけど、いっそのこと土下座でもしたいくらいだ。
『覚えてないならいいよ。気にすんな』
「いえ、お詫びだけでもさせてください。気が済まないんで」
『……じゃあ、仕事で遅くなるけど、それでいいなら家で待っててよ。外で会う時間ないし、面倒だから』
私の必死の訴えに、相手は渋々ながら了承してくれた。
余計に迷惑をかけてるんじゃ、と私の中の悪魔が囁いているが、気にしないことにする。
借りは作らない主義だ。