苦くて甘い恋愛中毒
『理由がないとすきじゃないなんて、そんなの逆に恋じゃない』
朋佳の言葉が蘇る。
どうしてなんて分からない。でも、どうしようもなく彼に惹かれる。
どうしたらいいの。
どうしたら、彼が手に入る?
彼が、欲しい。
「……要さん」
意を決してその人の名を呼ぶ。
煙草をくわえながら、声を出さずに表情だけで疑問の意志を返してくる。
「彼氏と別れたばっかのくせにって思うかもしれないけど、でも私、要さんがすきです」
一瞬だけ驚いたように目を見開き、それでも何も言わずに、真っ正面から私を見つめて、次の言葉を待ってくれている。
なにを、伝えたらいい?
どうしたら伝わるんだろう。
「元カレのこと落ち込む暇もないくらい、要さんのことしか考えられないの。要さんが欲しい」
すべてを言い終えた後、思っていることの十分の一も伝えられなかったことに落胆しながら、彼の言葉を待つ。
でも、どれだけ待っても要さんが口を開く様子はない。
何も伝わらなかった?
軽い女だと思われた? どうしよう、泣きそう。
目頭が熱くなり、そこから溢れそうになってくる水滴をこぼさないように必死に上を向く。
「……菜穂はいい女だと思う。でも、付き合うことは出来ない。菜穂がどうとかじゃなくて、誰とも付き合う気はないから」
「……どういうこと?」
彼の言葉の意味を知りたくて、なお説明を求める。
「俺の中では仕事の優先順位が絶対一番で、それが変わることはこれからもない。マメなタイプでもないし、所詮俺にとって女の存在価値なんかそんなもんなんだよ」
目を伏せたことで、彼の長いまつげが影を落とす。
誰かを、思い出しているのだろうか。
でも。
それでも、私は。