苦くて甘い恋愛中毒


その後もいろんなことを話して、店を出るころにはすっかり空が赤く染まっていた。

「あー、今日は楽しかった!」

大きな声でそう言う朋佳に、急に誘ってごめんねと言うと、またあの柔らかい笑顔で首を振ってくれた。

そして、急にその笑顔が消えたかと思うと、少し申し訳なさそうに言いづらそうに、切り出した。


「さっきのこと、菜穂ちゃんがいいならあたしがとやかく言うことじゃないけどさ。少しだけ周りを見てみてもいいんじゃないかなぁ? もしかしたら、菜穂ちゃんのことをすごく大事にしてくれる人だっているかもしれないじゃない?」

朋佳はきっとすごく私のことを心配して言ってるんだと思う。
私に幸せになってほしいって思ってくれている。

その気持ちが分かったから、私は何も言わずにただありがとう、と告げた。


朋佳と別れて、すぐに帰る気にもなれずなんとなく街へ出る。

今日はどこかで外食しようかな。
誕生日なんだし、少しくらい贅沢してもいいかもしれない。
おひとり様っていうのが悲しい気もするけど。

そんなことを考えていると、鞄の中でiPhoneが震えた。

まさかと思いながら、がっかりしたくなくて、頭に浮かんだ考えを振り払う。

でもそこに表示されていたのは。

『暇なら家来い。今日は、飯はいい』

なんで? なんで今日なの?

こんなことするから、諦めきれないのに。

心の中では恨み言を言いながら、それでもやっぱりうれしい気持ちは隠せない。


ただの気まぐれかもしれない。
誕生日なんてそもそも知らないかもしれない。

それでも、こんな日に要に会えるっていう事実は変わらない。


要と出逢って3年。
誕生日に会えるなんて初めてだった。



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