苦くて甘い恋愛中毒
「五十嵐さん、ごめんなさい。五十嵐さんを選んだら、きっとすごく大事にしてくれて幸せだと思う。でも、自分でも馬鹿だと思うけど……それでも、あの人が好きなんです」
私の右肩に置かれた彼の腕をそっと下ろして、同時にその手を優しく握る。
五十嵐さんはなにも言わなかった。
ただ、優しくて切なげな表情を向けただけ。
「あーあ。ひどいな、菜穂ちゃんは」
あははと笑いながら、いつものようにおどけてみせる。
なぜだか、私が泣きそうになった。
「だめだよ。泣くのは、あの人の前にして」
彼の手を握っていた私のそれを優しく離して、微笑みながらそう言うから。
私もその言葉に従って、ぐっと涙を堪えた。
「こっぴどく振ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
皮肉めいた言葉を発して、最後にパーフェクトな笑顔を向ける。
今は、目の前の彼のためだけに。
カツン、と踵を鳴らして走っていく。
どうしたって大好きな、あの人のところへ。
「遅い。凍え死ぬだろ」
別に、私が待っててと言ったわけじゃないのに。
理不尽なクレームにそう言いたくもなるけど。
でも今は、どんな言葉だって許せるような気がした。
さっさと車に乗り込む要に続いて、私も助手席に乗り込む。
よかった、今夜この場所に座るのが私で。