チョウクライロ伝説
プロローグ
江戸時代中期。羽後地方(現在の秋田県にかほ市付近)。

象潟は小滝部落での聞き取り調査を終えた武久は塩越部落に戻るために道を急いでいた。

眼下に広がる日本海が午後の陽射しを受けて白く輝いていた。水平線と黄砂の舞う空が曖昧な境界線をにじませながら、その中に浮かぶように飛島が青く佇む。

振り向くとまだ所々に雪を残した鳥海山が優しくも雄大に武久の背中を見守っていた。

塩越部落まではまだ半日ほどかかりそうだったが、なんとか日暮れまでにはと足を速めた。しかし茂り始めた雑草が足にこすれて下り斜面の小道を軽快に、とはいかなかった。

斜面が少し急になったところで足を休めた。4月にしては暑い陽射しに汗が止まらなかったが、風がひと撫で、黄砂に黄ばんではいたが武久の心を和ませた。九十九島の絶景が見えてきた。鳥海山をバックに浮かぶ海からの九十九島も格別だったが上から見る九十九島もまた見逃せない風景だ。

松島ほどの豪華さや壮大さはないものの、日本人の侘び寂びの琴線に触れるこの風景こそ日本の風景だと武久は地元民として誇りに思っていた。

「しかし何でまた俺は急にチョークライロ舞になんか興味持ち始めたんだろ・・・それにしてもチョークライロって変な言葉だ」

部落の長老に聞いてもわからなかったことを小滝まで行っていろんな人に聞いて回ったことを整理する時間が楽しみだった。何せ予想もつかない、もしかしたら全くの骨折り損にもなろうかという話しも出て好奇心を揺さぶられてしまった。

一人の老人が言った。

「物部氏のことを調べたら何かわかるかもしれぬ。協和にある唐松神社に行きなされ」

しかしまぁ80歳を越えて自分の歳すらあいまいな仙人みたいな爺さんの戯言だと思えばそれまでだ。いや、無関係なら無関係だとわかればそれはそれで貴重だと前向きに考えた。

しかし妙に引っかかる情報だった。

「物部氏って大昔の悪者じゃね~のか?で、なんで唐松神社なんだ?」

武久は何かが始まる予感に震えていた。徹底的に調べてやろうと思った。

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