チョウクライロ伝説
その頃。象潟町小滝。金峰神社をとりまくように連なる小さな集落。奈曽の白滝が秋田県内ではちょっとは名の知れた観光名所として小学生の遠足などでもにぎわう。鳥海山登山の玄関としても有名な集落だ。渓流釣りのマニアにとっても重要な拠点となっていた。鳥海ブルーラインで鳥海山の5合目までクルマで行けるようになって便利にはなった。有料道路として開通した当初は秋田出身の桜田淳子が象潟海水浴場で記念コンサート(?)を開くなど大盛況だった。

道路整備も進み、クルマ社会が浸透し始め、鳥海山観光の入り口として多少はにぎわいを見せた小滝部落。しかし次第に斜陽の傾向はクルマ社会の浸透が逆に仇となった形だ。元々商売上図ではない農村の人間が観光資源を活用できずにしまったことは不自然ではない。

いつしかクルマに乗った観光客は小滝を通過し、そのままブルーラインに乗るようになった。

しかし逆の見方をすればこれでよかったのかもしれない。手つかずの観光資源が自然のまま残されている。

小滝に住む奈南は、観光地化されなかった自分の町にほっとしていた。地元の高校を卒業し、地元に根をはる弱電大手メーカーの社員として働き10年を過ぎ、親元で質素に暮らす奈南には他人に言えないほどの貯えがあった。不況の煽りを受けた会社でリストラの対象にはならなかったものの、労働日数の削減と給与の削減となっても何も困らなかった。

その美貌は社内でも有名で地味な町では浮いた存在でもあった。東京本社の出張社員の目にとまり、何度もその手の誘いは受けた。

別に男嫌いでもなく、男経験がない訳でもない。むしろ同年代の子たちと同じかそれ以上に恋愛には積極的なつもりだった。感覚が歪んでしまうようなドロドロした経験をした訳でもない。何故か惹かれる男が自分に近寄らないし、周りを見渡しても見あたらない。

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