Monsoon Town
母親は陣内を残して、若い男と一緒に去って行ってしまった。

別人のような母親の笑顔と白い背中が頭の中に浮かんだ。

ペタリ…と、陣内が地面に膝をついた。

小さな背中が震えていた。

「――うっ、ひくっ…」

陣内は声を押し殺すようにして泣き始めた。

「――母さん…」

同じ言葉を何度も言う彼のその背中を、藤堂はただ見つめるだけだった。


陣内の家に入っても、陣内は泣き続けていた。

そんな彼に対して、藤堂は何もすることができなかった。

声をかけることもできなければ、一緒に泣くこともできなかった。

(――俺は、こんなヤツだったっけ…?)

何もできない自分が憎くて、そんな自分自身を殺したいと藤堂は思った。
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