Monsoon Town
欲しいものは、手に入るのが当たり前だった。

子供の頃から、それが当たり前だった。

あれが欲しいと言えば、買ってくれた。

これが食べたいと言えば、食べさせてくれた。

それが当たり前だった。

けど、どんなに頑張っても手に入らないものがあった。

それは、人の“心”だった。

「――手に入らなかった…」

影でその光景を見ていた綾香は、呟いた。

陣内が結ばれた。

相手はひまわりである。

陣内がひまわりを選んだ。

綾香は目をそらすように、背中を向けた。

いつもそうだった。

どんなに欲しいと思ってダダをこねても、“心”は手に入らなかった。
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