Monsoon Town
「そろそろ、お互い仕事に戻った方がいいかもな」

那智が顔をあげると、陣内は不敵な笑みを浮かべていた。

その笑みに見とれてしまったのは、女としての本能からだろうか?

「じゃ」

陣内は手を振ると、その場から立ち去った。

彼の後ろ姿が見えなくなっても、那智はその場に固まっていた。

「――何よ、一体…」

呟いた声は、誰にも聞かれることなくその場から消えた。

(あんなの、私の理想じゃない!)

自分の理想の男は、お気に入りの恋愛小説に出てくるような人である。

王子様のようなかっこよくて優しい人が理想の男だ。

けど…彼は、理想とすごくかけ離れている。

「だから違う」

言い聞かせるように呟くと、那智は急ぎ足でその場から立ち去った。
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