恋して、チェリー
ベタリ、と床にへばりついたままの視線を上へと上げる。
急に広がった視界の映るのは、だらしなくジャージを着崩した男子がふたり。
ひとりは、クチャッとなまめかしい音を口からこぼしていて。
きっとガムでも噛んでいるんだろう。
じっとりと、どこか品定めをするように見下ろす視線に、あたしの体が危険信号をキャッチした。
「へぇ、結構カワイイじゃん」
やっぱり、あたしの体が発信した危険信号は正しかった。
発せられた言葉が、それを物語っていて。
いまや、けたたましく鳴り響くのは“赤色”の危険を知らせるサイレンみたい。
ココハ、キケンデス。
イマスグココカラ
ヒナンシテクダサイ。
どこか機械じみた音程のない言葉たちが、頭の中に散らばった。
すぐに立てるように、グッと足首に力を入れる。
逃げ出すタイミングを見計らうあたしを前に、なぜか顔を見合わせるチャラ男子たち。
「あれ、こいつ……」
「“例”のオンナ?」
――男好きで誰とでもすぐヤる、っていう。
その言葉を聞いた瞬間、足首に入れたはずの力がスッと抜けてしまう。
「咲坂」
「ちぇり」
まるで獲物を捕らえた肉食動物のような目。
「なぁ、どうなんだよ」