沈黙の天使

世の中では既に知られていることだが、世界中に1億程の天使が存在する。

そしてそのすべての天使に哀しい運命が用意されているのだ。すべての天使共通の運命、それは異性と結ばれることが無いということ。
すべて女性ということ。

そして、自分以外の家族がすぐに死を迎えるということ。

中には天使とすれ違った時に違和感を感じ、しばらくして娘が天使になったという例もあったようだ。
あまりのショックで自殺を計ろうとするものも居たが、その回復能力の早さに誰もが長い寿命以外で死ぬことがなかった。

そもそもの始まりはきらびやかに着飾る天使を羨んだ悪魔が地上に一人の天使を連れてきて殺してしまったと言うことだが、何千年も昔の話で定かではない。

「……沈黙の天使って、いつ生まれるの?」

湯気の無くなりかけた湯飲みを眺めながら絵美が言う。
即答する祖母。

「今日産まれたわ。あなたよ」

今まで身動き一つしなかった絵美の体が少しだけ揺れた。
祖母はそれ以外何もしゃべらずにゆっくりと立ち上がり寝室へと向かった。

「ママ……」

リビングに一人になった絵美は不安に押し潰されそうになりながら、母親を思い浮かべる。

亡きがらは既に寝室から運び出されていた。今日の日を知っていた祖母と母親が数日前より準備をしていたのだ。
そうなる運命だと決まっていたことが祖母にも母親にも辛いことであったのは間違いないだろう。


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