沈黙の天使
第3章 終わりの見えない命
誕生日から一ヶ月ほどが過ぎた高校の卒業式。

病院から出た絵美は、一週間ほどで学校へ通うようになっていた。
病院で隆彦と会ってからは、何事もなかったかのように会話をしている。
そう、本当の友達のように。

天使は忌み嫌われていたが街中で見かけることは少なくなかった。

珍しがられることは無かったが、教室では天使だというだけで哀れみにも似た態度を取る人も居てその都度隆彦が庇ってくれた。

「天使だからって今までと今日で絵美の何が変わったってんだよ!」

庇い立てしてくれる気持ちはとてもありがたかったが、一番必要としている隆彦に先頭を切って別れを告げられた病院での会話は脳裏に焼き付いてしまっている。

それでも隆彦が嫌いになれず、彼を目で追っている自分がいる。
けれども友達で――。

絵美の心は常に誰かに握り潰されているかのようだった。


‡‡‡‡‡‡


蛍の光を聞きながら教室へと戻って来た。
卒業アルバムをもらい、思い思いに友人達と会話を弾ませるクラスメイト達。

保護者達も少しずつ集まって来た。薫の顔も見えたが絵美には彼女の元に行く前に隆彦に伝えたいことがあった。

先程からキョロキョロと教室内を見回しても彼の姿が見当たらない。
まだ隆彦と付き合っていた頃、毎日通っていた中庭の木の下へと走っていた。

木の根を枕にして寝転がりながら音楽を聴いている姿を見つける。

「隆彦…」

ゆっくりと近づき、横に座る。
三月の空はまだ寒くて、素足に触れる木の根が体を冷やす。
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