新しい歌
玲は続け様に歌い出した。曲紹介とか、下手なMCなど入れずに、そこに聴衆など居る事も気に掛けず。玲は自分の歌の世界に入っていた。そして、居合わせた者達は、その世界に包まれた。
二曲程ミディアムテンポの曲が続いた。
曲自体にはそれ程、音域の幅がある訳ではなく、一見簡単そうに歌っているが、寧ろこういう変化の乏しい曲調をきちんと歌いこなせる才能に、私は驚嘆した。
曲の広がりを持たせるべくサポートする楽器は、自ら弾くキーボードのみ。
自分の声だけで広がりを感じさせる……
玲のシンガーとしての才能は、間違いなく「とんでもない」ものであった。
四曲目辺りから、私の気持ちに多少の冷静さが戻り、一聴衆からプロとしての耳に変わって行った。
それでも、身体の中で渦巻く興奮は、まだまだ強かった。
集まり出した聴衆に何度か視線を送る。
みんな、玲の持つ磁力に引き寄せられていた。
玲の声には、そういった磁力のようなものが備わっていた。単なる美声では、こうまで人の足を止められないし、心を奪えるものでは無い。
幾つもの音色を持っていて、それが曲調によって大きく変化する。技巧的かというと、決してそうではない。無意識のうちにそうなっているのだろう。だから、歌そのものにあざとさが無い。
ふと、玲の声は誰に似ているのだろうと思い始めた。