ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*

先輩はゆっくりと顔を上げて、「ありがとう」と笑った。

「苺ちゃんはいい子ね」
「そんなっ…」

そんなことない。いい子じゃない。

「裕ちゃんが好きになったの、分かる」
「えっ…」
「分からないって顔してるね」

藤堂先輩は笑った。

確かにあたしは分からない…。
どうして西藤くんがあたしを好きになってくれたのか…。
自分でも分からないこと…藤堂先輩は分かるって…。
他人だからこそ、分かるのかな…。

「苺ちゃんなら大丈夫だよ。裕ちゃんを…よろしく」

それは、藤堂先輩のあたしに対する、お別れの言葉…。

その言葉を聞いた瞬間、“卒業”を実感した。
藤堂先輩が居なくなることを、実感した。

藤堂先輩が居たことで、あたしと西藤くんは遠回りしてしまったけれど…
藤堂先輩が居なければ、今の西藤くんは居なくて…。

藤堂先輩が居たから、あたしは西藤くんに恋をした。

その、藤堂先輩が居なくなる…。
仲が良かったわけじゃない、かと言って、悪かったわけでもない。
だけど、今あたしの心の中の気持ちはきっと…

“寂しい”だと思う。

「…はい。ありがとうございました」

あたしは精一杯の返事をした。

この返事が、あたしが藤堂先輩を送るお別れの言葉。

そしてこれは、藤堂先輩とあたしの“約束”。

ジャリ…

靴で土を踏む音がした。

振り向くと、そこには西藤くんが立っていた。
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