ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*

この声−…。

あたしは考えるよりも早く、反射的に振り返った。

「何こんな所で突っ立ってんの?」

そう言って、柔らかく微笑むのは、

「裕くん…」

何て偶然なんだろう…。

「とりあえず、ここ邪魔だから」
「あっ…」

放心状態のあたしの手を、裕くんは引っ張る。

引っ張られながら、人波を歩くのは一昨年と同じで…。

まるで、一昨年の今日にタイムスリップしたみたい−…。

でも、一昨年とは違うんだよね?
手を握り返してもいいんだよね?

そっと手に力を込めると、

裕くんは振り返って、こっちを見て微笑んだ。

その笑顔に、あたしの胸はきゅうって、なった。


「大丈夫か?」

人波から外れた所で、裕くんは足を止め、あたしの方を向いた。

「うん」

あたしは頷く。

「遅くなってごめん。…みんなは?」
「えっと…はぐれちゃったから、分かんない」
「またはぐれたわけ?」
「あ…はい」

あたしが恥ずかしそうに俯くと、裕くんは笑った。

本当は、わざとはぐれたんだけど…秘密にしておこう。

「ね、裕くん…?」
「ん?」
「さっきね…」

さっき、結城くんの言ってたことが、気になる。

だけど…

「どうして、あたしの居場所が分かったの?」

やっぱり聞けない。
< 312 / 494 >

この作品をシェア

pagetop