ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*
「ありがとうっ!」
沙季さんは、まだヘアーメイクの途中にも関わらず、スタイリストの人を跳ね退けて、あたしの元へ駆け寄る。
「大丈夫ですかっ?」
ドレスを持ち上げて、難しそうに歩く沙季さんに声をかけると、
「大丈夫、大丈夫」
と、笑った。
この人がお兄ちゃんのお嫁さん。
あたしからお兄ちゃんを奪った人…。
「沙季、麗奈、ちょっとロビー行って来る」
「あぁ…うん」
「行ってらっしゃい」
お兄ちゃんの言葉に、曖昧に返事するあたしと、笑顔で手を振る沙季さん。
“沙季、麗奈”
いつから、沙季さんの名前を、先に呼ぶようになったのだろう…。
未練があるわけじゃない。
だけど…“妹”として、ほんの少しの嫉妬。
「あの…あまり時間がないので…」
お兄ちゃんを見送るあたし達に、スタイリストさんが、申し訳なさそうに言葉をかける。
「あ、ごめんなさいっ」
沙季さんはまたドレスを持ち上げ、急いで元の位置に戻ろうとする。
スタイリストさんがドレスの後ろを持とうとしたけど、先に気付いたあたしは、自然とドレスの裾を持った。