ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*

ゆっくりと歩いて行って、沙季さんが大きな鏡の前の椅子に腰掛けると、
スタイリストさんはまた、沙季さんのアップにした、栗色の髪に手を掛ける。

着々と進められていく準備。

鏡に映るのは、ウエディングドレスに、身を包んだ沙季さん。

そんな彼女の姿を、穏やかな気持ちで見ている自分が、不思議に思えた。


「…来てくれて良かった」

ポツリと沙季さんが、嬉しそうに言葉を漏らす。

どうしてそんなことを口にしたのか…理由は、聞かなくても分かった。

お兄ちゃんのことが好きだったあたしは、今まであまり沙季さんと、話をしたことがなかった。

子供だったあたしは…
沙季さんを避けていた。

「兄の結婚式に、出席しない妹なんていませんよ」

真意を言えるはずもなく、ごまかすと、沙季さんは「そうだね」と、笑う。

ごめんなさい…。

何も知らない沙季さんに、心の中で謝る。
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