ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*
彼はきょとんとした顔をする。
「あのぅ…」
あたしが声をかけると、ふっと笑った。
「いくら俺でも、名前も知らない人といきなり付き合おうとか思わないっすよ~!」
「は、はい…」
そりゃあ、そうだよね。
「そうだっ!」
「何っ!?」
いきなり大声を出すから、びっくりする。
「俺、今日先輩の名前、聞こうと思ってたんですっ!名前はっ?」
「えっと…津田 苺です。」
「津田…いちごっ!?」
「はい」
「いちごってあのイチゴっ!?」
「はい」
こくんと頷く。
驚かれるのは慣れているけど、あのイチゴって、他にどのイチゴがあるのだろう…。
「珍しいっすね!」
「ははっ…よく言われます」
「あっ、俺は岡田 翔って言うんで!」
「岡田…くん」
「いや、翔って呼んでください!」
「え、えぇ!?」
男の子を呼び捨てなんて、出来ない。
「ダメですか?苺先輩」
「苺先輩?何で下の名前に…?」
「だって、苺とかかわいい名前、呼ばなきゃ損じゃないですか」
「あ…ありがとう」
名前を褒められるっていうのも、なんだか嬉しい。
「だーかーら、俺の事も翔って呼んでください!」
「えっと、それは…」
難しい。
そもそも【苺先輩】と呼ぶのも、許したわけじゃないんだけど…ダメとは言えないし、ダメな理由もない。
「お願いします!」
顔の前に両手を合わせて、お願いする彼に、あたしは「わかった」と呟いた。
「翔くん、でいいかな?」
「はいっ!ありがとう、苺先輩っ!」
翔くんは、とても嬉しそうに笑った。
男の子の名前に、くん付けで呼ぶなんて、幼稚園以来な気がする。
なんだかくすぐったい感じ…。