モノクロォムの硝子鳥

ひゆが通されたのは屋敷の二階にある南向きの部屋だった。

広々とした部屋には、アンティーク調の家具が取り揃えられていた。
大理石であつらえたテーブルに、一人掛けのゆったりとしたソファが二つ。
他にも、何が収納されているのか分からない家具達が慎ましく鎮座している。

淡いクリームを基調としたその部屋は、ふんわりと暖かい雰囲気に包まれていた。

大きな窓ガラスから見える中庭は、華美になり過ぎない美しい庭園が伺える。
らちらりと覗いたバルコニーもかなり広いと感じられ、自分の部屋の何個分だろうかと考えてしまった。


「お荷物をお預かり致しましょう」


持っている鞄を示され、預けてしまって良いものかと逡巡する。
貴重品は家の鍵と財布くらいだが、手放すのは不安だった。


「保管の為にお預かりするだけです。必要な時にはすぐお渡し致します」


ひゆの心中を察してか、付け足された言葉にほっとして持っていた鞄を預けた。
鞄を丁寧に受け取ってから、九鬼はひゆを更に奥の部屋へと案内する。

進んだ先には二つの扉。

一方がバスルーム、もう一方が寝室になると言う。
てっきり客間に通されたものだと思い込んでいたひゆは、またもや驚きに目を見張った。


「……あの、此処は誰かのお部屋なんですか? …お風呂とか、寝室……とか…」

「いいえ、此方は蓮水様にお寛ぎ頂く為にご用意させて頂いたお部屋です。こういったお部屋が御屋敷内には他に何室か御座います。ご招待したお客様に合わせてご案内しておりますので、部屋の大きさも内容もそれぞれ異なっております」

「……そう、ですか…」


笑顔で言われてしまうと、軽く眩暈を覚える。
こんな豪華な部屋が他に何部屋もあるなんて。素人目で見ても、贅を凝らし、かなりのお金が掛かっているのは分かる。

志堂院というのはどれだけ大金持ちなんだろう――。

考えたく無くても、目の前にある高価な物達を目にすれば、自然とそちらへ思考が傾いてしまった。

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