モノクロォムの硝子鳥
言葉に甘えてゆっくりとお風呂を堪能したひゆは、薔薇の香りをふんわりと纏ってバスルームを出る。
九鬼の言葉通り、言われていた場所にはバスタオルと着替えが用意されていた。
さすがに下着はどうにもならないだろうと思っていたが、ひゆが身に付けていた衣服は全て無くなっており、洋服と一緒に下着まで用意されていたのには、恥ずかしさに立ちくらみしてしまった。
仕方なく用意されていた下着と洋服を身に付ける。
深い紺の生地に白の刺繍が施された下着は、カップの縁とアンダーに繊細なフリルが施されている。
お揃いのショーツとキャミソールにもそれぞれ刺繍とフリルがあしらわれていた。
こんな可愛らしくも上品な下着を付けた事が無かったひゆは、可愛い物で身を包む事に知らず胸が高揚してしまう。
思いがけずピッタリとフィットした下着に、どうして……と疑問が芽生えたがそれはこの際無視しよう。
というか……考えない方が良い。
用意されていた服は上品な濃紺のワンピース。
襟はスタンドカラーになっており、首元から胸元はスクエアカットされた淡いクリーム色の生地は、美しいピンタックとフリル、そしてワンピースと共布の包みボタンが飾られている。
後ろに結ぶ大きめのリボンが可愛らしくて好みだった。
英国の女学院を思わせるような清楚な服装。
自分が着ても良いのだろうかと戸惑いながらも袖を通した。
「――ゆっくり温まれましたでしょうか?」
バスルームを出ると、テーブルの側に居た九鬼がひゆに気付いて笑顔で迎えてくれる。
着替えの事もあって、条件反射のようにひゆは視線を落としてしまった。
頬が火照っているのは、お風呂のせいだと思いたい。
「失礼致します」
立ちすくんだままで居るひゆに静かな足取りで近付くと、九鬼が背後に回った。
途端に、身体に妙な緊張が走る。
「後ろのリボンは結びにくかったでしょう?お声を掛けて頂けましたらお手伝い致しましたのに……」
「……あ、いえ。自分で出来ると思って……」
こういった服を着た事が無かったので確かに難しかったが、エプロンを結ぶ要領だろうと思って適当にリボンを結んだ。
鏡で見たリボンの形はお世辞でも綺麗と言い難いが自分の中では許容範囲だ。