モノクロォムの硝子鳥
不思議に思って瞼を開ければ、九鬼は数歩離れた位置に下がってひゆの姿を眺めていた。
「リボンタイ一つで雰囲気が随分変わりますね。とても良くお似合いですよ」
胸元に視線を落とせば、綺麗に結ばれたリボンタイが見える。
(――さっき、なにか…)
触れたか触れないか――。
繊細な感触が唇に残っている。
確かめるように指先でそっと唇に触れてみるが、直ぐに腕を降ろした。
きっと気のせいだと、そこから意識を遠ざける。
「少し遅くなってしまいましたが、アフタヌーンティーをご用意させて頂きました。宜しければお召し上がり下さい」
「アフタヌーン、ティー……?」
ずっと立ちつくしたままのひゆに、彼は穏やかな笑顔で椅子に座るよう促した。
クッション性の高い、ふわりとした椅子にそっと腰を下ろす。
九鬼は銀色のワゴンに乗せられたケーキやティーカップをテーブルへ手際よく並べていく。
並べられていくケーキの数々に、ひゆは目を奪われていた。
三段になったケーキスタンドには、それぞれのお皿に、サンドウィッチ、スコーン、プティ・ケーキなど綺麗に彩り美しく添えられている。
スタンドの横に置かれた陶器の小皿には、アプリコットとブルーベリージャム。
ふんわりとした純白の生クリームもある。
「……可愛い…」
「本日のお茶は冬のブレンド紅茶を淹れさせて頂きました。スリランカの紅茶にキャラメル・カカオ・カフェをブレンドしております」
ティーポットに熱いお湯が注がれると、ふわりとのぼるキャラメルの甘い香り。
「ストレートとミルク、どちらが宜しですか?」
「じゃあ……、ストレートで」
「畏まりました。こちらにシュガーポットが御座いますので、お好みでお入れ下さい」
紅茶の澄んだ色合いが、ゆっくりとティーカップに満たされていく。
カチャリ、と。
九鬼は丁寧な所作でティーカップをひゆの前に置いた。
甘い香りをひとしきり堪能してから、紅茶を一口含む。
キャラメルフレーバーと微かに香るカフェの初めての味わいに、ほぅ……と柔らかな吐息が零れた。
砂糖を入れなくてもキャラメルの甘さだけで十分に美味しい。