モノクロォムの硝子鳥
甘い物は嫌いじゃ無い。
現に、スコーンの香ばしい小麦の香りと瑞々しさを感じさせるアプリコットに、コクリと小さく喉が鳴ってしまう程だ。
口にすればどれ程美味しいだろう。
「……じゃあ、頂き、ます」
差し出されたスコーンを受け取ろうと手を伸ばす。
だが、触れそうになる直前に九鬼は空いている方の手でやんわりとひゆの手を止めた。
くれるのでは無かったのか? と、戸惑うひゆに九鬼は柔らかく告げる。
「そのまま、お口を開けて頂けますか?」
「……ッ!」
九鬼の意図を察して、ひゆの顔は瞬時に真っ赤になる。
このまま、彼に食べさせて貰うなんて。
そんな真似、恥ずかし過ぎてとても出来ない。
「じ、自分で食べますから……っ」
真っ赤な顔で拒むひゆに九鬼は口元だけで微笑む。
「貴女のその小さな手に触れて、震えて落してしまってはいけませんから。……さ、口を開けて頂けますか? 一口が無理でしたら、齧って頂いて結構ですから」
スコーンに乗せられたクリームが唇に付きそうなほど近付けられて。
逃げられない……と観念して、ひゆはおずおず口を開く。
恥ずかしさに目線を何処へやったら良いのか分からず、ぎゅっと目を閉じた。
少しひんやりとしたクリームが唇に触れて、ひゆはピクンと震えてしまう。
「そのまま少し舌を出して、クリームを舐めて下さい」
命令に似たような深い響きがひゆを惑わす。
恥ずかしさで頭が麻痺してしまっているかもしれない――…。
彼に言われるまま、そろりと差し出した舌先に柔らかな感触が触れた。
と、同時に舌先でクリームが甘く蕩けていく。