モノクロォムの硝子鳥
染み入るように口腔に溶ける甘いクリームをコクリと飲み込む。
鳴らした喉の音が大きく響いた気がして、ひゆは羞恥で顔が熱くなるのを感じた。
視界を閉じても、そうでなくても、彼に見られている事には変わらないと今更ながらに気付く。
何だか目を閉じている方が恥ずかしい気がしてきて、そろりと瞼を上げた。
目の奥がジワリと熱く、開けると少し視界がぼやける。
そこには目を閉じる前と寸分変わらぬ九鬼の微笑みが、ひゆを見詰めていた。
「――とても扇情的なお顔で召し上がられますね」
「……え?」
何を言われたのか、瞬時に理解出来ないまま流された言葉。
聞き返してみても、九鬼は口元に笑みを浮かべるだけではぐらかされてしまう。
僅かな引っ掛かりを覚えるが、それよりも解決しなければならない問題が一つ。
ひゆの視線の先には、一口サイズのスコーンが彼の手にそのままある。
(――やっぱり、食べなきゃ駄目なのかな…)
考えるうちに、ジッと食い入るように九鬼の手にあるスコーンを見据えていたひゆは、クスクスと堪えるような笑い声が聞こえて我に返った。
「警戒なさらずとも、毒など入っておりませんよ」
「あ、いえっ……そんなつもりじゃ――」
冗談交じりに答える九鬼に、そんな風に見てしまっていたのかと慌てて目を伏せる。
この屋敷に来てから、いや、彼に出会ってからはずっとペースを乱されっぱなしだ。
普段の自分なら、何も感じずに軽く受け流せていただろう。
誰かとこんなにも長く話したり、感情に振り回されるのは随分久し振りな気がする。