モノクロォムの硝子鳥

――アフタヌーンティーを終えた後。
暫くして、部屋の扉をノックする音が響いた。

扉へと移動した九鬼は予め訪問者が誰なのか知っていたようで、相手を確認する事無く静かに扉を開いた。

姿を見せたのは、一人の男。
九鬼も身長が高いが、現れた男はそれよりも高く見える。

190センチ近く有りそうなスラリとした長身。
肩幅のある引き締まった体躯は黒に近いグレーのスーツに包まれており、男の容姿を際立てている。

見るからに一般人には持ちえない独特の雰囲気を感じて、ひゆは無意識に身構えた。
もしかしたら、この男がひゆを屋敷に呼び寄せた当人かも知れない。

平然と部屋に入って来た男は、扉を開けた九鬼には目もくれず、椅子に座っているひゆに視線を定めると真っ直ぐに近付いて来る。
目の前まで来ると、男は無言のまま無遠慮な視線をひゆに浴びせた。


「――君が、蓮水の娘か」


少しの間を置いて、男はおもむろに口を開いた。
低く、硬質な声音は彼の態度以上に威圧的に感じられる。

名前も名乗らない男に少し腹が立ったが、男の問いに静かに首を縦に動かす。
ひゆの肯定を見て、男はそのまま向かいの椅子へ腰を下ろした。

男が腰を落ち着けたのを見計らい、九鬼がテーブルに珈琲を置く。

静寂の中、芳醇な香りがゆったりと空間を漂う。


「私の名前は、義永という。志堂院グループの顧問弁護士を務めている」


義永と名乗った男は、スーツから名詞を取り出すとひゆの前に差し出した。
名刺を受け取りひゆは小さくお辞儀をする。


「ところで、君はどの辺りまで話を聞いているのかな」

「……話、ですか?」


突然、「どの辺り」と聞かれても、何の事を言われているか瞬時に反応出来ず、ひゆは分からないと表情に浮かべて聞き返した。

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