モノクロォムの硝子鳥
その反応に義永は眉根を寄せて僅かに顔を曇らせる。
「聞いていないのか? 彼から」
そう言って、後ろに控えている九鬼に義永はちらりと視線をやった。
義永の動作に、投げかけられた言葉の指すものをひゆは遅れて気付く。
「話、は……」
この屋敷へひゆが連れて来られた理由。
車の中で少しは聞いたが、話を途中で遮り聞く事を拒んだのはひゆだ。
もしかすると、ある程度説明をしてからひゆを義永に逢わせるのが九鬼の仕事だったのかもしれない。
一通り説明をする時間は、車の移動時間に充分にあった。
どう考えても自分に非がある。
「――どういう事だ?」
冷ややかな声音にキュっと心が萎縮してしまう。
緊張感と言いようの無い不安に息苦しさを覚えながら顔を上げると、義永の視線はひゆにではなく九鬼に向けられていた。
「事情を説明してから連れて来るように、……そういう話じゃ無かったか?」
九鬼を見据えたまま、義永は無表情で告げる。
自分に言われた訳では無いのに、義永の口調はひゆの心を軋ませた。
「申し訳ございません。お連れする事ばかり考えてしまい、蓮水様にご説明するのを失念しておりました」
――えっ、とひゆは小さく驚く。
ありのままの事情を説明されると覚悟していたが、九鬼の思い掛けない対応にひゆは息を飲んで見詰めた。
義永の視線を受け止めながら丁寧に返す九鬼だが、浮かべる笑顔は先程までの優しいものでは無く、ひやりとした冷たさを感じさせる。
義永はそれ以上の追及はせず、「そうか」と一言口にしてから、改めてひゆへと向き直った。