モノクロォムの硝子鳥
「ロクな話もせずに、突然こんな場所まで連れて来られたんじゃ警戒して当然だな……」
独り言のように呟く義永は嘆息して、少し考え込むような素振りで温くなった珈琲に口を付けた。
「……あの」
「何だ?」
不機嫌に聞こえる声に怯みそうになるが、気を引き締めて先を続ける。
「私が何で此処に連れて来られたのか、きちんと理由を聞いてませんが――九鬼さんに私のお父さんが志堂院さんの子供っていうのまでは教えて貰いました」
「――ああ、なら」
「でも……っ!」
「話は早い…」とでも続けようとした義永を、強い口調で遮る。
「でも、そんな話を突然されて……はい分かりましたって頷いたり出来ません。私の事調べてるんならもう知ってると思いますが、私は8歳まで児童施設で育てられました。お父さんもお母さんも誰だか分かりません。施設から私を引き取って養ってくれている人の事しか……」
話しているうちに段々と語尾が弱くなっていくのはどうしようもなく、本当は逸らしてしまいたい視線も無理に合わせて自分の気持ちを打ち明ける。
自分の事を調べて連れて行くくらい強引な事が出来るのなら、どうしてもっと早くに自分を探してくれなかったのか。
自己主張が極端に少ないひゆでも、大人の言い分を言われるまま甘受出来るような年ではない。
胸の底から上がってくる言いようの無い感情が渦巻いているのを、奥歯を噛んで堪える。
膝の上で握り締める手は震えたが、それ以上震えが大きくならないように強く握り締めた。
「――だから、親の話を今更されても困ります」
はっきりとそう言い切ると、真っ直ぐな目で義永を見返す。
感情の読めない表情で一通り話を聞いていた義永は、聞き終えたと同時に瞳をすっと細めた。
「――それで? 君の言い分はそれで全部か?」
「っ……!」
突き放すような台詞は容赦なく心を痛め付ける。
ひゆの言い分を子供の我が侭と言わんばかりに、分かりやすい溜め息を吐かれた。
「君の言い分は至極当然だろうが、こちらもそれでは困るのでね」