モノクロォムの硝子鳥
威圧的な言葉に、ひゆの反発はいとも簡単に押さえつけられてしまう。
義永は凍りつくひゆを静観するだけだ。
重苦しい沈黙に耐えられず、ひゆは何も言えなくなって視線を落とした。
ひゆがどうあがいた所で、此処へ連れて来られた理由を受け入れなければならない、と。
目に見えない圧力が義永から伝わってくる。
「君を養ってくれたという人物が、君自身を大事に育ててくれているようなら状況はまだマシだったんだが……」
「どういう、事ですか……?」
不審な台詞にひゆは不安な顔を上げる。
と、此方をずっと見ていたのか義永と視線がかち合う。
マシな状況というのは……どういう事なのか。
次から次へと沸き起こる不安に胸が苦しくなるが、話の先が気になってじっと待つ。
「――今からちょうど1ヶ月前、志堂院の親族に康造氏の遺産相続について公表があった」
「……遺産相続」
「志堂院グループは日本有数の大企業だ。その莫大な遺産分与がどう取り扱われるか、親族に公表された。まぁ……それが親族間の抗争の火種になったんだが。遺言の内容は、会社の経営は志堂院の親族に限らず、重役会議で決定された有能な人間に会社のトップとして経営を任せる事。事業とは別に、康造氏自身の遺産については、親族順に法で定められた額が相続出来るという事。これが大きな部分だ」
義永の話によると、現在、志堂院グループの頂点には康造氏、その下には志堂院の親族メインで重要なポジションに就いているという。
康造氏が退任した場合、その後のトップは志堂院の親族からではなく、あくまで社の決めた有能な人材が会社のトップとして就任する事が書き記されていた。
志堂院の親族らは、まずこの内容に動揺したという。
志堂院グループを相続するなら、親族の誰かが相続するだろうと高を括っていた為だ。