モノクロォムの硝子鳥
何が起こっているのか。
驚愕にひゆの鳶色の瞳が大きく見開かれる。
視界いっぱいに広がるのは、九鬼の整い過ぎる程の綺麗な貌。
思考回路が考える事を放棄して、ただただ呆然と目の前の人を映す。
(――何、……で……っ)
重ねられ溶け合う唇から伝わる熱に、漸くひゆの思考がパニックと共に動き出した。
自分が受けている行為が信じられず、ギュっと瞳を閉じる。
生まれて初めての経験だった。
強張る身体で逃げようと九鬼の下で抗ってはみるが、体格差が有り過ぎて僅かに身をよじる程度に過ぎない。
しっとりと重なり合っていた唇はほんの少し離れると、九鬼の唇は器用にひゆの下唇を柔らかく噛む。
微かに、けれど確実に甘い刺激を与える口付けは、丁寧にひゆの唇を啄んではまた深く重ねられる。
繰り返される行為に、次第にひゆの身体は強張りから痺れに似たような震えに包まれていった。
甘くて執拗な口付け。
拒むようにきつく唇を閉ざしていたひゆだったが、それと同時に息をも一緒に止めてしまっていた。
流石に息苦しくなり、九鬼の唇が離れた瞬間、酸素を求めてあえかな喘ぎと共に唇を開いた。
「……ッ……はぁっ、んっ……ンぅ!」
ひゆの唇が綻んだほんの一瞬の隙間。
優しく触れていただけの九鬼の唇が更に深く重なり、僅かな隙間を押し開いて熱く濡れた舌が口腔へ潜り込んできた。
他人の舌の熱さに怯え、言葉にしがたい何かが背中をゾクリと這い上がる。
慌てて顔を引こうとするが、頬に添えられた九鬼の掌は、いつの間にか逃げられないようにひゆの顎をしっかりと固定していた。
滑り込んで来た舌は丹念に歯列をなぞり、喉奥へ追い詰めたひゆの舌に触れた途端、強引に絡め捕り逃げる隙を与えずに貪る。
苦しくて、苦しくて――九鬼の舌は口腔だけでなく脳の奥までかき混ぜるような錯覚を覚えさせた。
このまま見えない何かに溺れてしまいそうで、怖い――。
きつく閉じた瞳の奥で熱が孕み、眦から熱いものが溢れる。
二人の舌がいやらしく絡み合う度に、ひゆの華奢な身体が九鬼の下で喘ぐようにヒクンと跳ね上がった。
ままならない呼吸に酸素を求めて胸を喘がせれば、九鬼は僅かに呼吸を許してくれた。
けれどまた直ぐに深くひゆの唇は奪われる。