モノクロォムの硝子鳥
「遅い時間になってしまいましたが、これからご夕食の準備を致しましょう。何か召し上がりたいものはございますか?」
いつの間にか触れていた手は離れ、少し距離を置いた位置で改まったように立つ九鬼が尋ねてくる。
つい先ほどまで纏っていた雰囲気は消えて、本来の執事としての凛とした空気を纏っていた。
「……あっさりした物が食べたいです」
考えてみてもこれといった物が思い浮かんで来ないので、曖昧に答える。
「畏まりました。それでは直ぐにご用意致します」
ひゆの曖昧な答えをそのまま受け止め、九鬼は軽く腰を折って頭を下げる。
無駄の無い動きでテーブルに残されていたティーセットを片付けて部屋を出て行った。
……パタン、と静かに閉まる扉の音を聞いた途端、やっと一人になれた安心感に大きく息を吐き出した。
緊張し過ぎて固くなっていた身体から力が抜けて、ソファーに深く身を沈める。
目まぐるしく進む展開に思考がついて行かない。
たった数時間の事に、緊張だけでなく疲労も感じていたようだ。
漸く一人きりになって、ぼんやりと高い天井を見上げてみる。
しばらくそうしていたが、全く現実味が沸いてこなかった。
突然見知らぬ迎えに連れられ、自分の本当の親の話や、遺言書の内容。
……そして九鬼の行為。
「何で、急にこんな事になったんだろ……」
ポツリと呟きを漏らして、ひゆはそっと瞼を閉じた。