モノクロォムの硝子鳥

これまでなるべく目立たないように自分の感情を表に出さず、ひっそりと生活していたひゆにとって、いつもなら考えられないくらい感情的だったように思う。

育ててくれた義母とも親しい関係を築けず、家庭内も殺伐とした雰囲気だった。
酷い扱いを受ける事は無かったが、その代わり義母から今まで『愛情』といった類のものを感じた事は無い。

生活する場を与えられているというだけで、義母の前ではひゆは生きた人形だった。
家に居ながら、会話ひとつすらない日があっても珍しく無い。

学校でも同様で、誰かと長く会話したのはどれくらい振りだろうか。

必然的にコミュニケーションを取るのが苦手となり、義永との会話は酷く拙かった。

口調は硬質で、冷たい印象を受けた義永だが、それでもひゆと向き合って会話をしてくれた。
それがひゆにとっては嬉しかった。

少なくとも、義母よりはちゃんとひゆ自身を見てくれていたから。

(……また、話をしなきゃならないんだろうな……)

きっと話はあれだけじゃない。
義永はまだまだ問題を抱えていそうな口振りだった。

彼との会話を思い出して、無意識に溜め息が零れる。

言葉だけじゃなく、義永の醸し出す雰囲気がどことなく怖いと思ってしまう。
逢っても萎縮してしまって、また拙い会話になってしまいそうで……。

考えるとだんだん憂鬱な気分になってきた。
なるべく逢いたくないな、と心が曇っていく。

義永と比べて、九鬼は初めからずっと優しい笑顔を浮かべていたように思う。
接する物腰は常に柔らかで、こちらを気遣う言葉も優しい。

執事という彼の仕事がそうさせているのかもしれないが、優しさに戸惑いながらも彼の言動にひゆは胸が疼いた。

この気持ちが何なのか分からない。

言葉にしがたい感情がずっと心を乱して落ち着かなくさせていた。

< 42 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop