モノクロォムの硝子鳥
ソファーの背に頭を預け、目を閉じたまま考えに耽りながらそっと指先で唇に触れてみる。
軽く触れてみると、まだほんの少し九鬼の温もりが残っているような気がした。
(……キスって、あんな感じなんだ……)
九鬼との口付けを思い出すと、じわりと肌が熱くなった。
唇を重ね合わせるだけだと思っていたのに、喉奥まで探られるような深い口付け。
溶けるような舌の熱さや、優しいのにどこか支配的な彼の手が、ひゆの深い場所に押し込めているものを暴かれそうで怖い。
妖しい感覚に捕われそうになってキュっと唇を噛みしめる。
考えちゃいけない、と自分に言い聞かせて頭を振った。
考えなければいけない事は他に沢山ある。
この志堂院の屋敷に連れられて、家に帰して貰えないなら、自分はいつまで此処に居れば良いのか。
生活する手立ての無いひゆにはまだ保護者が必要だ。
それに通っている学校の事もある。
幸いかどうか、今日が金曜日だったので明日と明後日は学校はお休み。
バイトもしていないので、出かける予定も特に無かった。
それでも、その後はどうしたら良いのだろうか。
この屋敷からちゃんと学校へ行けるのか、そもそも屋敷から出られるのかどうかも怪しい。
考えれば考えるほど問題が増えて、頭痛がしてくる。
「……ほんとに、どうしたら良いんだろ」
疲れた重い気持ちを抱えて、何度目か分からない溜め息を吐いていた。