カウントダウン
 何となく目に付いたインド料理店でカレーを食した後、移動遊園地のメリーゴーランドをぼんやりと眺めていた浩の目に、
「セックスショップ」
 という看板が飛び込んだ。
(セックスショップ)
 浩は二十歳前後の学生時代、時たま新宿のいかがわしい店に出入したものだ。
 扉を横に開くと、店内はAVやエロ雑誌、妙な玩具で一杯だった。
(性に白人も黄色人もない)
 浩はブリティッシュエロスの品々に、暖かみを覚えた。
 四つん這いになった金髪女性の人形を、白人男性の人形がバックから犯している。そんな光景に見入っていた浩の視界に、長身でブロンドの長髪が入ってきた。
 彼女は浩と同様ブラックで統一された美麗なる身体を震わせ、滑稽なセックスグッズを笑っていた。浩は傍らの女性の横顔を見詰めた。スカイブルーアイとホワイトティーツが浩を見下ろして、
「面白い」
 と英語で喋りかけてきた。
「うん」
 丸裸の男の人形が腰を動かす度に、
「カチャッ、カチャッ」
 というふざけた音がする。
「君は一人?」
「うん」
 美女は正面から浩を見詰め、にこにこしている。浩は妙態に引き込まれた。
「よく来るの?」
 美少女は微笑後、
「いいえ」
 と返答した。
「君は綺麗だねえ」
 浩は感嘆している。婀嬌(あきょう)は好意的な笑顔だ。若い娘はいい。
「何歳?」
「十九」
「お茶でもどう?」
 媛女(えんじょ)は浩を正視している。浩はどぎまぎしてしまった。
「OK」
 手弱女(たおやめ)はにこやかだった。浩は先導して扉を開けた。
 巷は賑々しい。浩は久々にときめいている。吸込まれそうな青い瞳を持つ、光り輝くブロンド娘子(じょうし)とロンドンのソーホーを歩いているのだ。
(俺にも未だつきがあったか)
 適当な喫茶店を見つけると、二人は向い合って着席した。紅茶をオーダーし、浩は水を飲んだ。
< 2 / 8 >

この作品をシェア

pagetop