カウントダウン
「君の名は?」
「アリイシャ」
「アリイシャ?」
「そう。アリイシャ・ルレオス。貴方は?」
「コウ・タハラ」
「中国人?日本人?」
「日本人」
 浩は英語が殆ど喋れないが、
「アリイシャのアクセントが固い」
 と先程より気付いている。
「君はイギリス人?」
「いえ。スウェーデン人」
 意外な応答に、浩は多弁になった。
「スウェーデン人か。スウェーデンの何処から?」
「ストックホルム。貴方は?」
「山口」
「ヤマグチ?聞いたこと無いわ」
「田舎だよ」
 浩は山口の両親や離別した妻子をふと思い浮べたが、直ぐ心弾む今に意識を戻した。
 イギリスの紅茶は美味である。浩は珈琲よりもティーが好きだった。
「今夜家へ来ない?」
 浩はアリイシャの東洋人みたいな厚い瞼に、問いかけた。
「何処に住んでるの?」
「セントアミンホテル」
「ホテル?リッチね」
 アリイシャのヴィーナスのスマイルに、浩は縁なし眼鏡のレンズを曇らせてしまった。眼鏡を外しハンカチで拭きつつ、
「ただの宿無しだよ」
 と苦笑している。
「貴方は何歳?」
「三十六」
「まあ。三十六には見えなかったわ」
 アリイシャは目玉をくりくりと回転させた。浩はビューティブロンドの仕草に、失笑してしまったのだった。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop