ウォーターマン
 高山は、お茶を一服すすった。
「すまんが、それは言えない」
 恵子は職務の内容を尋ねようとしたが、やめた。
「友安は、今夜も遅いのか?」
「ええ。朝遅くなるって言ってた」
「ウォーターマンの事件を担当してる?」
 恵子は頷(うなず)いている。
「俺は、君が友安と再婚したことを、どうとも思っちゃいない。俺は国家の為に死んだ、と思ってくれ」
「以前から、誰かにつけられていると感じていたけど、工作さんだったのね」
「うん」
「今どこに住んでいるの?」
「宿無しさ」
「えっ」
「住居は必要ないのさ。水さえあれば」
 恵子は頓悟(とんご)した。
「ひょっとして、ウォーターマンは、あなた?」
「さぁ、な」
「さぁ、なって」
「恵子、いいか。俺と会ったことは誰にも言うな。狂人と思われるだけだぞ」
「分った。又来る?」
「君が厭(いや)じゃなければ」
 恵子は警吏(けいり)の家内(かない)である。主人が求索(きゅうさく)している真犯人を知って、このまま別離(べつり)したりはしない。
「何時でも来て」
高山は恵子の真意(しんい)を看破(かんぱ)したが、触れずに、友安宅を出ていった。
 
 久坂は極秘裏(ごくひり)に犯罪防止官を文武(ぶんぶ)両道(りょうどう)の警官達から公募したが、応募者は一向に集まらなかった。
 選抜者(せんばつしゃ)は肢体(したい)を失くし、家人(かじん)や知人とも永別(えいべつ)せねばならないのである。平和になれ、公務員安定志向で警察に入ってきた二十一世紀の若者に、滅私(めっし)奉公(ほうこう)の魂魄(こんぱく)は殆(ほとん)どなかった。
 久坂と磨生が合議し、経費は改造人間の倍かかるが、ロボットの犯罪防止官を製造することにした。犯罪防止官サイボーグ計画は、中止となったのであった。
 高山は久坂に招喚(しょうかん)されて公安省に登庁し、大臣執務室で、久坂より直接犯罪防止官計画の変更を打ち明けられた。

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