上司に恋しちゃいました
「俺と結婚しろ。それなら辞めてもいい」
「……は?」
つい間抜けな声を出してしまった。
こんな時に何をとぼけたことを言っているのだろう、この人は。
きっと今のあたしの顔は、思い切り渋面を作っていることだろう。
「俺と結婚するか、会社に残るか、どちらか選べ」
震えていた身体が、一気に冷静さを取り戻す。
「ちょ……待って下さい。結婚って……課長、結婚しているじゃないですか」
鬼の王子は、一瞬キョトンとした顔をして、ああ、これのことかと、左手の指輪を外した。
コトンと小気味いい音がテーブルに響いた。