上司に恋しちゃいました
あたしが拓也に話しかけたらどうするつもりだったのだろうか。


「どういうこと!? その女は誰よ!」


この一言で、コンビニは修羅場と化す。


けれど、あたしは何も言わなかった。


何もなかったかのようにコンビニを出た。


完全なる敗者。



何も買っていないのに、「ありがとうございました」と元気よく挨拶する店員が恨めしかった。


外に出ると、ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。


……あなたはあの女の子を取るのね。五年付き合ってきたあたしじゃなく、あの子を……。

あたしは次第に強くなっていく雨に打たれながら、さっきのコンビニでビニール傘を買えば良かったと後悔した。


水たまりが跳ねてストッキングが汚れても、かまわずハイヒールでカツカツと歩いた。

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