上司に恋しちゃいました
「美月」


あたしにしか聞こえないほどの音量で、鬼の王子の声が耳にすっと入ってきた。


鬼の王子を見ると、何もかもわかったような顔をして包み込むような優しい微笑を携えていた。


まるで『大丈夫だよ』と言われたみたいで、力が抜けて指先の震えが収まった。


指輪をぐっとつかむ。


鬼の王子の左手に手を添え、薬指の先頭に指輪をはめ込むと、ひと筋の涙の雫がぽとりと指輪に落ちた。


最初は、その雫が自分の涙だとはわからなかった。


泣いていることにさえ気付かなかった。


鬼の王子の左手に、指輪をぐっと沈めると、重く淀んだ感情が消えたような清々しさを感じた。


 顔を上げると、日の光がふたりを祝福するように降り注いでいた。


この場にいる全員があたし達を祝福してくれている。


あたしを罰するようで恐かった十字架も、あたし達の愛を守る強固な使徒のように心強い。
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