上司に恋しちゃいました

ムードも何もない庶民的な居酒屋に連れてこられたので、今日は絶対に『ない』と思っていた。


鬼の王子はあたしのことを部下としか見ていないんだと、慣れないビールを飲みながらほっとした気持ちと寂しい気持ちを隠しながら、笑っていたのに。


何も答えられずにいるあたしを見て、鬼の王子はなおも続ける。


「あんなことをしておいて、嘘だと思うかもしれないが、『あの時』は下心なんてなかったんだ。お前の……あんな顔を見て動揺していた。

とにかく早く乾かさなきゃと思ったんだ」


下心がなかった……?


喜ぶべきことなのかもしれない。鬼の王子の誠実さが分かったから。



けれどあたし達は一線を越えてしまった。


下心がなかったと言われて、ズキンと傷ついているあたしがいた。


「でも今は違う。俺の頭の中は今、煩悩まみれだ。今すぐその柔らかな唇に食らいつきたくてウズウズしている」

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