同じ空の下で
そして今、目の前にいるのはあの彼女だ。もう少女ではないけれど、間違いなく。
「出会っていたんだね」
僕はそう言う。彼女の瞳からは涙が溢れる。
「思い出してくれた?」
僕は頷く。
「ごめんなさい。全部私のワガママなの。あなたの記憶を取り戻してもらうために、あなたを過去へと送った。だけど、貴田や真鈴ちゃんのことは……予測出来なかった。あんな組織が誕生しているなんて。どこかで誤作動が起きてしまった。そのせいで、あんな危険な目に……」
僕は首を振った。
「いいんだよ。現にこうして、僕たちは助かっただろう?」
僕は過去を、いや未来を思った。始まりはあのメール。そしてペンギンとの出会い。過去へと飛ばされた僕たち。あれは全て、奏一人で演出していたんだ。
「奏」
この名前すら失っていた。僕はもう、何も失いたくないんだ。
「君が、愛だ」

周りの星が全て弾けたような気がした。これ以上の輝きは存在しないような強い光が、僕らを包んで揺らめいていた。
奏の顔が見えなくなる。その顔は、泣きながら笑っていた。
僕は必死に手を伸ばす。でもその指先はどこにも触れることはない。
「私はしてはいけないことをしてしまった。当然、それなりの犠牲が伴う。次はあなたを助けてあげることは出来ない。でも私はあなたに賭ける。あなたを信じる。必ずまた、私を見つけ出して」
そんな声だけが、最後に聞こえた。
そして僕は意識の深い深い奥底へと落ちていった。
< 153 / 157 >

この作品をシェア

pagetop