月の影

あの微笑

先生の担当科目は数学



つらつらの列ぶ数字や記号は大嫌いだが、あたしの数学の成績は良い


それはもちろん‥


「はい、静かに~授業始めるぞ」


この人が話す話は、この騒音の中でも真っ直ぐにあたしの耳に入る


冷たい口調で数式を読みながらも、ゆっくりとわかるように説明してくれる



この難しい数式を見るとね、あなたを思い出すよ



少し眉間にシワを寄せて真剣な顔


そんな顔がたまらなく愛しく感じる



授業は淡々と進んでいく、今朝言っていた小テストを解き、先生は簡単な解説をはじめる



ずっと数学だったらいいのに



小テストはみんなより早く解き終わった

手持ち無沙汰なこの時間を落書きで埋める


『せんせ~今日のテスト簡単過ぎるよ~手抜いたでしょ』


―コンッ


小テストの端に落書きをしている、あたしの手元に大きな手が落ちてくる



「‥こら」


見上げると口角を少し上げて苦笑いを浮かべている先生がいた


「‥ごめんなさい」


小声で言うと、「手抜きなんかしてないよ」と小声で返された



カツカツと前を歩いていく


あなたは知らないでしょう

そんな小さなことが、あたしの胸をきつく締め付けることを
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