揺らぐ幻影

『あー、かもね。それで地元の、なんかあるよね。チェーン店じゃない店。

こじんまりと若い夫婦でしてる、みたいな。利益より趣味、みたいな。

あるある、オシャレな。内装は旦那のDIYです、みたいな。そゆんでしょ?

そーいう雰囲気のって家でしたみたいな手作り感があるから良いね』


しっかりと結衣の想いを汲み取った愛美の相槌にテンションが上がり、はしゃいで話すと、

声が反響しているのはトイレかと問われ、お風呂だと言うと笑われた。


思い立ったらすぐ聞いてほしかった。
大好きだから、なんでもすぐに相談したかった。

それが世間でアツく言うなら友情で親友だろうから、少し皆を真似てみた。

ちなみに、なぜか高校に上がると、友達のことをツレと言うようになる不思議。それでもあえて友達と呼びたい結衣だ。


「愛美は? 彼氏はー? マフラーとか買うの? アクセ?」

『うーんどうかな、もう三回目だからね、ワクワク結衣とは違うよー、あんま面白くない、あはは』

余裕のある口調に、同い年でもやはり恋愛力に差があると思う。

中学の友人周りで彼氏が居たのは二人だけで、だから余計に結衣は恋愛のいろはに詳しくなかったりする。


カップルのバレンタインは、どんな風に過ごすのだろうか。

雑誌でしか見たことがない一流ホテルのバレンタインディナー、

高級なプレゼント、甘い甘いとろける安っぽい空想が広がる。


「いいなぁいいなー彼氏持ちは!」

『あははっ、まあ来年の結衣はそうなってるって、頑張ればー?』

愛美と愛美の彼氏、近藤と結衣の四人でWデートをしましょうと笑ってまとめ、適当に電話を切った。


緩んだ蛇口からはポツンポツンと水面に波紋を広げている。

湯加減なんてスイッチ一つの簡単温度設定しか知らないので、

たまに友人の家にお泊りをした際に、お湯と水を微調整しないといけないタイプだと非常に焦る。


蛇口の捻り具合で火傷しそうなくらいシャワーが熱かったり、

身震いするくらい冷たかったり。


彼と自分の恋は昔ながらの手間隙と便利な最先端のどちらなのだろうか。

そんな意味不明なことを思い、今日の疲れを勢いよく洗い流した。


…‥

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