揺らぐ幻影

うだうだ話す里緒菜、一方愛美はサンドイッチを両手で握りしめて、

「分かる分かる、里緒菜 見る目あるね」と、レタスが落ちたのも構わず、

市井は記念、大塚は彼氏、近藤は旦那節に同調し始める。


「えー、なんで」

  なんでー?

  普通に付き合うのも結婚も三人とも良いじゃん

  まあ、私は近藤くんだけど

  それに遊びに市井って変だし。彼女大事にするって言ってたし


不満げに結衣は友人二人の顔を見つめ、先を促すよう黙って待った。

お弁当を挟む形で両手を机に置いて微動だにしない少女をお子様のようだと感じた愛美は、

先生が生徒に説明する時のジェスチャーの一例、

人差し指を立てて分かりやすく自分の意見を述べた。


「だって大塚は純だから同じ目線で同じ感覚で気楽そうでー学生のノリで付き合うなら一番良い訳。

で、遊びに市井。市井って王子様キャラだから遠い存――「なんで、おかしくない? 市井って彼女大事にするって……、だって!」


この場面だけ見れば、まるで結衣は市井雅が好きなようだ。

そう誤解されるくらい少しムキになって反論していた。

悔しそうに下唇をきつく噛み、感情を抑える為に拳を握り、腑に落ちないから眉間に皺を寄せる――

そんな態度は彼氏を守る彼女に適しているはずだ。


本当は市井雅の後に語られるであろう近藤洋平について、

友人による好きな人の評価を聞きたかったが、つい口を挟んでいた。

それは市井雅を好きだからではなく、彼が近藤洋平の友人だからで、

好きな人の仲良しな人をけなされたくなかったからだ。


意中の彼の周りに居る人と勝手に知り合い気取りになる不思議な感覚は、

恐らく片思い経験のある人には分かる淡さだろう。

市井雅に親近感があり、大切な人のような気がして、勝手に正義感が働く。


時計の秒針がトラックを一定速度で走る。

スピーカーからはお昼のクラシック曲が鳴り、それに合わせて音たちが踊り出している。

けれども一番張り切っているのは、E組に溢れた友情の証拠のたくさんの笑い声だった。

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