揺らぐ幻影

冗談ありきなのに、あまりに嫌悪して言うのは何故。

眉を持ち上げて涙袋が痙攣しているのは何故。

そんなに拒絶しなくてもいいじゃないか。


  私は、だめ?


こんなに嫌な顔をするんだと、初めて知った。

今、彼の中でうっとうしい女ランキング上位の自信がある。


服飾コースはそんなに立派だと言うのか。

そんなもん全国には才能ある人がたくさん居て、身の程知らずじゃないか。

あなたは夢見がち。違う?

デザイナーで食べていく気なのか、そんなもん近藤が賞状を渡されているところを見たことがない。

市井なら学校新聞に名前があったけれど、近藤は入選さえしてないじゃないか。

一体どれだけ過信している。


ああ、こんなに彼自身を全否定しても、どうして悔しいのだろう。

雑魚キャラの結衣が浸蝕しては駄目だったのだ。


  ……そう、だよね

涙が溢れそうだ。
だって、今、嫌われた。


でしゃばったら駄目なのに、間違えてしまった。

彼氏彼女になっても恋人には距離がある、プライバシーがある。

それをむやみに知ろうとしたのは、他人の結衣だ。

恋愛対象になれたから調子に乗っていた。

うざいのは結衣、しつこいのは結衣、厚かましいのは結衣、さもしいのは結衣、

駄目じゃないか。人の領域に侵入してはいけないのだ。


未来を見据えた服飾コースの近藤からしたら、ド素人の女に不当な判断をされて不快だったのだろう。


どうして褒めたくないのだろう。
上手なことを認めたくない。


「わた、し」

握るスカート越しに手の平に爪が食い込む。

嫉妬と劣等感で人は死ねるのかもしれない。

ほら、馬鹿な考えが片思い症候群だ。


「宿題してないんだった! 急ぐから! じゃあね!」


宿題なら今日はない。
ないのに。
馬鹿だなと思った。
やっぱり馬鹿だなと思った。

少女は細い足で力強く地面を蹴った。

ふんわりした毛先から漂うのはシャボン玉の香りだ。

すぐに割れてしまう脆い儚さ、しぶとく残るのは負の感情、

嫉妬との距離感が保てなくて、失敗ばかり、

せっかくのチャンスを自ら割ってしまう愚か者にきれいな空は似合わない。

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