一なる騎士
 丘を下っていく人馬を見送りながら、リュイスはようやく肩の力が抜けるのを感じた。ひどく緊張していたことにいまさら気づく。ほんとうになんとも気の抜けない相手だった。

「君と義兄上が親しいとは知らなかったよ」

 少し咎めるようにリュイスはクレイドルに声をかける。

「別に隠していたわけではないですよ。特に親しいと言うわけでもありませんし。まあ、エルウェルでは良くも悪くも彼は有名人でしたしね。なにしろあの格好ですから」

「昔から、あれだったのか」

「いえ、昔よりさらにすごくなってます」

 深々とクレイドルはため息をついた。

「エイク殿の在学当時は、僕はまだ初等科でしたけど、先代は彼に目をかけていましたから、よく家に来ていましたよ」

「祖母殿が?」

 先の精霊使いの長であった優しく気品に満ちた老婦人をリュイスは思い返す。どうも彼女とあのエイクの取り合わせと言うのはしっくり来ない。

「話は後にして、僕たちも行きませんか。実は他のものたちは先にセイファータの城下に入ってもらっているんです」

「一人じゃなかったのか」

 リュイスの弁にクレイドルは苦笑する。

「忘れているのかもしれませんが、僕はこれでも精霊使いの長なんですよ。それなりに精霊使いの勢力を世間に誇示しないといけませんからね。けっこうな人数引き連れてきましたよ。相手が『大地の王』となれば、あまり役にも立てませんが」

「いや、心強いよ」

『王』は大地の<気>をつかさどるゆえに、<気>によって生かされている<精霊>にとって、王命は絶対だった。どんな優れた精霊使いとて王命に反することを精霊に課すことは出来ない。

 だが、それは別としてリュイスにとって精霊使いたちは心強く信用できる存在だった。
『精霊の愛し子』として生まれたセラスヴァティー姫の誕生より、ずっと彼女を守るために何かと協力してもらっていた。

 特にこの精霊使いの長とは、同年輩とあっていつのまにか心やすでに話し合える間柄となっていた。近衛騎士団に在籍していても、『一なる騎士』であるがゆえに同僚から煙たがれていたリュイスにとっては、貴重な友人でもあったのだ。

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