一なる騎士
 確かに王に正対するには役に立たないとはいえ、力の使い道はいくらもある。まったくの無力だと言うわけがない。まして精霊使いの長がヴォルデからわざわざ引き連れてきた者達ともなれば、その力は市井の精霊使いたちのものとは桁が違うことくらいは容易に想像がつく。

 しかも、精霊使いたちはエルウェル学院と密接な関係がある。エルウェルの卒業生は貴族にも多く、彼らは賢者として一目置かれている存在だ。彼らの持つ人脈も無視できない。

 となれば、ここでこの若き精霊使いの長の反感を買っても益はない。
 公爵はそれ以上の追及をあきらめたが、尊大な態度は崩さなかった。

「では、長殿だけでもごゆるりと逗留くださるがよい」

「有難くお言葉に甘えましょう」

 探り合いめいた挨拶がすんだところを見計らって、リュイスが声をかけた。

「ところで、何か御用があったのではないのですか」

 リュイスはセイファータ城に戻るなり、公爵がお待ちかねだと、ほとんど連行されるかのような勢いで連れてこられたのだ。当の侍従は逃げてしまったが。

「それなのだが」

 公爵はちらりと精霊使いの長に目を向ける。しかし、クレイドルは素知らぬ顔で怪訝げな眼差しを返しただけだった。どうやら、彼は見かけのままの無邪気さを装うつもりのようだった。

「長殿なら何も心配ありません。私の長年の知己ですから」

「それはそれは」

 リュイスのとりなしに、公爵はようやく口を開いた。

「王宮から情報が入った。ジアス・アスタートが近衛騎士団長に抜擢されたそうだ」

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