一なる騎士
「アスタート隊長が」

 リュイスは黒い目を瞠った。隣のクレイドルはわずかに息を飲んだ。
 近衛騎士団長といえば、王の直轄軍の最高責任者だった。城の警備隊長からそれは、あまりに異例の昇進だった。

「前の近衛騎士団長の謀反を未然に防いだ功績だという話だが、どうだか知れたものではない」

 元の近衛騎士団長は、実直な武人型の男であったが、彼もまた大地の荒廃に心を痛めていた。『一なる騎士』の呼びかけに呼応しようとしていたのだ。それが王に知れたとなれば、彼は反逆者として処刑された可能性は高かった。

 しかし、公爵は彼の生死にはまったく興味がなかった。

「アスタートなど剣技と体格にすぐれるだけの、爵位も持たない成り上がりの騎士に過ぎないが、どういうわけだか人望だけはある。しかも、本人は筋金入りの王の崇拝者だときている。懐柔もきかん。やりにくくなったな」

 リュイスはきつく唇をかんだ。黒曜石の瞳が色を深める。

(では、やはり貴方が最大の障害となるのか)

 人並みはずれた巨躯と武勇。悠然とした態度。時として見せる鋭い眼差し。
 そして、何よりその高潔な精神。
 彼を慕う騎士は多い。
 リュイスにとっても、アスタートはずっと憧憬の対象でもあったのだ。


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