一なる騎士
 アリアの柔らかな手がレイルの小さな手をぎゅっとつかむと、今度は部屋の外に引っ立てられる。いつもとあまりに違うアリアの様子に不安になったレイルが問いかける。

「アリア、母上は?」

「奥様はいらっしゃいませんよ」

 やっぱりいつもとは違うきつい声で言われ、レイルはとうとう泣き出した。その場に蹲ろうとするが、アリアは許さない。

「泣くんじゃありません。そんな顔で公爵様の御前に出るおつもりですか」

「だって、アリア、怖いよ」

 涙声でぐずつきながらももれた幼い言葉に、アリアはひとつため息をこぼす。
 そして、ふいに明るい表情を見せた。

「実は、お坊ちゃま。お庭に騎士様たちがたくさん集まっているんですよ。皆さん、鎧かぶとを身につけられて、それはもうすばらしい眺めです。はやく行かないと見逃してしまいますよ」

「ほんとう?」

「ええ、ほんとうですとも。さあ、勇敢な騎士様たちにそんなお顔を見せるわけにはいかないでしょう」

 アリアは自分の前掛けでレイルの顔をすばやくこすって、涙をふき取った。


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