一なる騎士
「いや、彼を暗殺してしまっては意味がない。王の守りの要でもある彼を正面から討ち果たして、天意を示さなくてはならない」

 クレイドルの予想に反して、淡々と答えるリュイスに動揺の色など微塵も見えない。漆黒の瞳に浮かぶのは思慮深げな光のみである。

 冷静な彼の言葉に、エイクはわずかに灰色の瞳を細めた。

「ふうん、なるほどね。ま、実際、暗殺は得策じゃない。かえって近衛騎士団の士気が上がるの確実だし。って、そんなに睨まないでくれる、クレイちゃん」

 青い瞳のいつになく険しい眼差しに気づいてエイクが揶揄う。

「あなたは、暗殺などとわざと持ち出して、我々を試している気ですか」

「心外だなあ。あらゆる可能性を提示するってのが、僕に求められていることらしいから、とりあえず羅列してみただけなのに。もうちょっとは信用してくれてもいいじゃない」

 と、エイクはけろりと言い放ったあと、ぶつぶつと独り言めいて呟きだす。

「じゃ、あとはあれしかないか。でも、あんまりいい手段でもないんだよなあ。時間をかけられないっていうんならそれしかないんだけど。ま、アスタートが申し出を受けないとはとても考えられないし。あいつなんか言ってみれば清廉潔白で高潔な騎士の見本だし……」

 いつまでもぶつぶつと言っていそうなエイクをクレイドルは遮る。

「だから、いったいなんなんですか」

 こんな悠長では日が暮れてしまうと言うのに、リュイスが涼しい顔をしておとなしく聞いているのも彼の気に障った。

 しかし、クレイドルの苛立ちはエイクには何の影響も及ぼさないようだった。彼は唇の端を引き上げると、薄く笑った。

「決闘だよ」

 まるでなんでもないことのように紡がれた言葉は、リュイスとクレイドルを瞠目させるに充分だった。


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