一なる騎士
 動揺も露に叫んだサーナと対照的にアディリの答えは簡潔だった。

「望んだ場所に」

「望んだ? ……姫様が行きたかった場所?」

「たぶん」

「たぶんって、どういうこと」

 アディリは視線を下にむけ、そしてまた顔をあげた。
 胸の前できつく握り合わせた両手が震えている。水色の眼差しがゆれていた。
 アディリもまたサーナに負けず劣らず動揺していた。

「精霊を使っての移動は、場所をはっきりと指定できないと……」

 語尾が震えていた。

「できないとどうなるの?」

 なかば返事を予期しながら、サーナはたずねる。口の中がからからに渇いてた。

「もどってこられなくなる、二度と」

「そんな」

「危険なことなの。腕のいい精霊使いだって、よほどのことがなければやらない。まして、今は精霊たちの力が弱っている。私、私、とめられなかった。聞こえたのに、精霊たちの声が。でも、彼らは私の言うことなんてぜんぜん聞いてくれなかった。セスの声が、願いが、強すぎて、私の声なんて届かなかった。私、私、……なんで、こんな……」

 そのまままだ幼い教師は、その場にへたり込んだ。

「アディリ」

 サーナがそっと肩に触れると小さな身体が震えているのがわかった。おもわず抱きしめてやると、アディリのほうからしがみついてくる。細い指がすがるようにサーナの服の胸元をつかむ。いつものとりつくしまもない彼女からは考えられないしぐさだった。

 と、ふいにアディリは顔をあげた。

 水色の瞳に浮かんだのは、まぎれもなく歓喜の表情。

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